【小説】岐路(仮題)

最近はショートショートも全然書いてなくて…楽しみにして下さってる皆さん、すみませんです。(^^;;
前々からもう少し長い物も読みたいと何人かの方に言われていて、ずっと温めていたストーリーがあるので、ぼちぼち書こうかなと思います。
今日はその「さわり」の部分だけ。
続きはいつアップするか未定w ごめんにょ〜
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ドアに手をかけた、まさにその時だった。
ポケットの中の携帯が振動した。
嫌な予感がした。
子供の頃からいつだって楽しみにしているイベントの時ほど何らかの事情で中止や延期になる事が多かったから。
携帯を取り出して見たら、やはりそうだ。かけて来た相手は待ち合わせをしている恋人のマサヤからだった。
通話ボタンを押し繋がったが黙っていた。
「もしもし?あれ?」雑踏の中のマサヤの声が聞こえた。
「…はい。」声をわざと硬くして答えると「もう出ちゃった?」とマサヤは聞いた。
あと5分早く出ればよかった。そうしたらもう外だと言えたのに。
「今出ようと思ってドアに手をかけたとこ。」
「そうか。よかった。ちょっと用事が出来ちゃったからさ、また連絡するから家で待機しててくれないかな。」
「は?店予約してくれたんじゃないの?」
「…ごめん。ここのとこあれこれあってまだ取ってなかったんだ。会ってから相談しようと思ってた。」
「今日、誕生日だって分かってるよね?」
「うん。分かってるよ。ごめん。」
「なんでもごめん、って言えば許されると思ってるんだね。」
「ごめん…」
「それで?どの位遅れるの?今度は誰?山崎さん?田所さん?」
「土居さん。ベッドから落ちて腰を打っちゃったんだって。」
「あっそ。じゃ、夜通しで腰を摩ってあげたら?もういいよ。私は1人で出掛けるから。じゃあね。」
マサヤはまだ何か言ってたみたいだけど、私は電話を切った。
ふぅ…ため息をついて玄関に座る。
マサヤには強がってあんな事言ったけど、私、1人で入れる飲食店ってスタバぐらいなのよね。
分かってる。マサヤは本当に優しくていい人で、今の仕事は天職だって事。愚痴こぼしたのなんて聞いた事がないし、怒ったりイライラしてるのを見た事もない。心底出来た人間だと思う。
でも、彼氏としては40点。ドタキャンばかりだし。
ついに誕生日まで…そう思うと鼻の奥がツンとした。
目一杯めかし込んでメイクもいつになくバッチリ決まったのに、このまま落として部屋着に着替える気にはどうしてもなれなかった。20代最後の誕生日だし。
親友のノリに電話したら「意地張らないで、自分から電話して仲直りしなさい!」と取り合ってくれないし。もう一度ため息をつく。
こんな時、いつも思い出す人がいる。
高校時代の淡い恋人、ユウジ。
自分で言うのも何だけど、ユウジは私にゾッコンだった。何でも願いを叶えてくれるスーパーマンみたいな男の子。
18歳とは思えないほど女心を分かっていたように思う。
些細なヤキモチが原因ですれ違ったまま、卒業を迎えてしまって、それ以来会っていない。
あの時ユウジと別れていなかったら結婚してたのかな。
少なくとも、誕生日に約束をすっぽかすような事はユウジならしなかっただろう。
「とりあえず駅まで行こうかな。」自分にいい聞かせるように声に出して言ってみた。
ポケットの携帯を取り出して見る。
着信はおろか、メールすらない。
そうよね。マサヤはもう5年も私を見ていて、私がこうなったらもう追い掛けても無駄と一番よく知っているのだから。
重い気持ちを振り払うようにドアを開けると暮れ始めた空が薄紫に染まっていた。

駅前はいつもと同じように人々がせわしなく行き交っている。
クリスマスが近いから、街はイルミネーションで飾られ、全体的に浮かれているように感じる。楽しそうなカップルや、家路を急ぐ家族連れ、薬局から流れてくる有線の音楽さえ私の孤独感を募らせた。
「何よ。何で電話もして来ないのよ!」口の中で早口で言った時、右側の視界で何かが素早く動いた。
ふと横を見ると小学3年生くらいの男の子が犬を散歩している…と言うより犬に引っ張られて走って来た。
犬はおそらくラブラドールレトリバーだろう。まだ若い。
犬の引く力に負けて、ついに男の子は転んでしまい引き綱を離してしまった。
一目散に駆けて来るラブラドール…捕まえてあげようと身構えていると、犬が小さな横断歩道に入ったその時、右手からバイクが来るのが見えた。「危ない!」思うのと同時に走り出していた。

気がついたら布団の中だった。
動くと身体中が痛む。心なしか頭痛もする。
最後の記憶はバイクの急ブレーキの音。
事故に合ったのかな。でも、病院ではなくて自分の部屋だし、身体は痛むけど怪我をした痛みではないから大した事はなかったのね。
時計を見るとまだ5時だった。痛む身体を回転し、寝返りを打ってもう少し眠る事にした。
どの位眠ったんだろう。母親が呼ぶ声で目覚めるまで、延々眠っていたようだ。
「今、何時?」
「もうお昼近いわよ。身体はどう?」
背中から母親が声をかけて来た。
けれど、私は振り返る事が出来なかった。
身体が痛いからではない。
母親はもう9年も前に他界していた事を思い出したのだ。
私に話しかけているのは誰?
いや…私は昨日の事故で死んでしまったの?

つづく

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